メールマーケティングにおいて、キャンペーンの成否を左右する最も重要な要素のひとつが件名です。数秒のうちに、受信者はそのメールを開くか無視するかを判断しますが、その判断材料はほとんどがこの一行に集約されます。そのため、日本国内でも大企業から中小企業、個人事業主に至るまで、多くのマーケターが件名の最適化を目的にA/Bテストを導入しています。どれだけ優れたコンテンツでも、開封されなければ意味がありません。
本記事では、実際に国内企業で行われたA/Bテストの成功事例を通じて、開封率を大幅に向上させた要素を分析します。
件名が開封率に与える影響とは?
株式会社ベーシックの「日本のメールマーケティング白書」によると、業界にもよりますが、平均的なメールの開封率は20~25%程度とされています。しかし、件名を最適化するだけで30%以上の改善が見込まれるケースもあります。
たとえば、東京都内のあるEC企業では、件名を変更することで開封率が17%から24%へ上昇。配信リストが10万件だった場合、約7,000人以上の追加閲覧につながりました。
A/Bテストとは何か?
A/Bテストとは、同じ内容のメールに対して2種類の異なる件名を用意し、ランダムに分けた2つのグループにそれぞれ配信。その後、どちらの件名の開封率が高かったかを測定し、勝った方を本配信に採用する手法です。
- パターンA:「6月のおすすめ商品はこちら」
- パターンB:「この商品、3日で完売した理由とは?」
開封率の高かった件名がその後の全体配信に採用されます。
開封率を高めた件名のポイント
1. 緊急性を演出する:期限を意識させる表現
例:都内のミールキット宅配サービスがテスト
- A:「今週のメニューをご確認ください」
- B:「金曜まで!割引終了前にチェック」
Bの件名は42%高い開封率を記録。「金曜まで」や「割引終了」といった表現が、受信者に今すぐ確認すべき理由を与えます。
2. 興味を引く:あえて情報をぼかす
例:IT系スタートアップの採用案内メール
- A:「エンジニア募集のお知らせ」
- B:「この条件なら、転職もアリ?」
Bの件名は35%開封率が高くなりました。具体的な情報をあえて伏せて、続きを読みたくなる心理を刺激しています。
3. パーソナライズ:名前や地域などの個人情報を活用
例:ファッション通販サイト
- A:「新作アイテムが入荷しました」
- B:「佐藤さんに似合う新作、見つかりました」
BはAに比べて19%高い開封率を記録。MailchimpやKarteなどのツールで、名前や過去の購買履歴を活用した自動パーソナライズが可能です。
4. 数字やリスト:情報の整理感を出す
例:ニュースキュレーションメルマガ
- A:「今週のおすすめニュース」
- B:「今週読むべき記事5選」
「5選」といった数字を含む件名は情報が明確に伝わりやすく、Bの開封率は28%高くなりました。一覧性の高さがポイントです。
5. 疑問形:答えを知りたくなる心理を刺激
例:スキンケア商品のプロモーション
- A:「新製品登場のお知らせ」
- B:「最近肌荒れが続くの、これのせいかも?」
質問形式は、自己関連性と好奇心の両方に訴えかけ、開封を後押しします。
6. 絵文字:視認性を高める
B2C向けのSaaS企業が行った調査では、件名に絵文字を含めた場合、開封率が13ポイント上昇しました。
- 例:「🚨本日終了!最後のチャンス」
ただし、B2B領域では逆効果になる場合もあるため、ターゲットによって使い分けが必要です。
7. 差出人名の工夫:企業名か実名か
- A:送信者「〇〇オンライン」
- B:送信者「田中(〇〇オンライン)」
Bのように実名を添えることで、開封率が21%向上。人からのメールだと認識されやすくなります。
8. 否定的な表現:損失回避の心理を活用
- A:「イベントが始まりました!」
- B:「これを逃すと、次はありません」
Bの件名は31%高い開封率を記録。損失を回避したい心理が、行動を後押しする大きな動機になります。
9. 明確なターゲティング:自分向けだと感じさせる
- A:「夏のおすすめアイテム」
- B:「30代女性に人気の夏アイテム」
自分に合った情報と認識されることで、開封率は15~20%向上します。
10. 強力なキーワード:「無料」「特典」「当選」
スパム判定には注意が必要ですが、「無料」や「特典」といった言葉は、依然として強い開封動機になります。件名は40文字以内が理想です。
A/Bテストを行う際のポイント
- 十分なサンプル数:各パターンに少なくとも1,000件以上送信
- 検証変数は1つに限定:件名以外はすべて統一する
- 対象セグメントの均質化:公平な比較を実現する
- テスト結果の蓄積と活用:過去のデータを今後の施策に反映
結論:件名が全てを変える
どれだけ優れたコンテンツでも、メールが開かれなければ価値はありません。メールマーケティングは心理戦であり、件名はその第一歩です。
A/Bテストを活用すれば、直感ではなく実証されたデータに基づいて改善を重ねることが可能です。
次に受信トレイを開いたとき、自分がどんな件名に惹かれてクリックしたかを思い出してみてください。そこには、よく考え抜かれた一文があったはずです。