継続できないのは意志力の問題だけではない
断食ブームが広がる中で、「断続的断食(インターミッテント・ファスティング)」を取り入れる日本人も増えています。16時間断食、5:2ダイエット、1日1食などのバリエーションがあり、YouTubeやSNSでも数多く紹介されています。しかし、その反面、継続率は非常に低いのが実情です。日本国内の健康アプリ「FiNC」や「あすけん」の利用者データによれば、3週間以上継続する人は全体の約2割未満という調査結果もあります。多くの人が途中で挫折してしまうのは、果たして本人の「根性不足」だけが原因なのでしょうか?
1. 時間だけ守り「食事の質」を軽視
断食の時間だけを重視し、食べる内容をおろそかにする人が多く見受けられます。断食明けに揚げ物や炭水化物中心の食事を摂ると、血糖値の急上昇とインスリン抵抗性の悪化を招きます。特にコンビニ弁当やジャンクフードばかり摂っていると、むしろ脂肪がつきやすくなります。断食を成功させるには、食事の内容や栄養バランスの管理が不可欠です。
2. 空腹ストレスと睡眠の質の悪化
空腹状態はストレスホルモン「コルチゾール」の分泌を促し、睡眠の質を大きく低下させます。睡眠が浅くなると、食欲ホルモン「グレリン」が増え、「レプチン」が減少し、結果的に過食しやすくなります。「断食すると逆に食欲が増す」と感じるのはこの影響によるものです。
3. 停滞期の誤解と早すぎる断念
断食を始めてすぐに体重が落ちるのは、グリコーゲンと水分が減少するためです。しかし、2〜3週間目から体重が停滞し、「効果がない」と判断してしまう人が多いのが現実です。この停滞は身体がエネルギー効率を調整し始めた証拠であり、脂肪燃焼が本格的に始まるのはこのタイミングからです。
4. 自分の体内リズムに合わない時間設定
日本では「朝食抜き+昼夜の16:8断食」が主流ですが、これは全ての人に適しているとは限りません。夜型の人は夕食に偏りがちで暴食リスクが高まります。国立健康・栄養研究所の報告によれば、「体内時計と食事のタイミングが合致しないと、代謝が乱れる」という知見もあります。朝昼の食事に重きを置く方法も、選択肢の一つです。
5. 水分・電解質の摂取不足
断食中は水分やミネラルが不足しがちです。喉の渇きを空腹と誤認したり、低血糖によるめまいや倦怠感を経験する人も少なくありません。マグネシウム、カリウム、ナトリウムといった電解質の補給が不足すると、頭痛や集中力低下などが起こり、継続が困難になります。
6. ホルモン変化と月経周期を無視
女性の場合、月経周期によってインスリン感受性や食欲が大きく変化します。特に排卵前後や生理前は空腹感が強くなりやすいため、この時期に無理な断食を行うとリバウンドリスクが高くなります。こうした背景から、断食モデルが男性中心であることへの批判も国内の医療関係者から上がっています。
7. 「断食だけ」で他の生活習慣を放置
断食だけに頼って、運動・睡眠・ストレス管理といった基本的な生活習慣をおろそかにすると効果は限定的です。実際、在宅勤務で活動量が激減した中で断食を始めた人の多くは、筋力低下や基礎代謝の低下によって体脂肪が減りにくくなっています。トータルな生活習慣の見直しが不可欠です。
8. 自身の健康状態や疾患リスクを軽視
低血糖症や糖尿病予備軍、甲状腺疾患、ホルモンバランス異常を持つ人が、医師の指導なしに断食を行うのは極めて危険です。特に日本では定期健康診断が普及しているため、断食開始前に医師の確認を受けることが望ましいです。自己判断での過度な断食は健康を害するリスクがあります。
9. 環境要因と外食文化を過小評価
日本は外食文化が根付いており、飲み会、職場のランチ、家族との夕食など、食事の誘因が多いです。特に新入社員や転職直後など、人間関係構築の段階では断食の継続は難しくなります。人付き合いが少ない時期や、連休などを活用して開始時期を調整する工夫が必要です。
10. 体重至上主義から健康志向への転換の失敗
「あと2kg落としたい」「1週間だけ頑張ろう」という短期的な視点では、断食は続きません。むしろ、血糖値の安定、内臓脂肪の減少、細胞レベルでの自己修復促進(オートファジー)といった健康上のメリットに注目することで、長期的な継続が可能になります。断食はあくまで健康維持の手段であり、目的化すべきではありません。
失敗ではなく、戦略の見直しと捉えるべき
断食に失敗した経験は、自己分析と改善のチャンスです。他人の成功例を鵜呑みにせず、自分の体質・生活リズム・ストレスレベルに合わせた方法を模索することが肝心です。「断食=万能」ではなく、栄養管理、水分補給、運動、ストレス対応、睡眠の質といった多角的な視点が、成功のカギを握ります。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、医療的判断や治療を代替するものではありません。実践前には医療機関や専門家への相談を推奨します。